京都鴨川司法書士・行政書士事務所

認知症の相続人がいる場合の相続手続きはどうなる?問題点と対処法を解説

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認知症の相続人がいる場合の相続手続きは
どうなる?問題点と対処法を解説

認知症の相続人がいる場合の相続手続きはどうなる?問題点と対処法を解説

2023/12/06

近年、高齢化にともない「相続人の誰かが認知症になっている」というケースが増えています。この場合、相続手続きが困難になることをご存知でしょうか。

今回は認知症の相続人がいる場合の相続手続きについて解説します。すでに認知症の家族がいる方や今後の相続のためトラブルを避けたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

    認知症の相続人がいるときの遺産分割協議

    被相続人が遺言を残しておらず、複数人相続人がいる場合、財産の分割方法を決めるために遺産分割協議が必要です。しかし、相続人の中に認知症の方がいるとさまざまな支障が出てきます。
     

    認知症の相続人がいると遺産分割協議ができない

    遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。相続人の中に判断能力が低下している人がいる場合、適切な意思決定が難しくなり、遺産分割協議ができなくなります。この場合、法定相続分にしたがって相続するか、成年後見制度を利用する必要があります。
     

    勝手な代筆は無効!罪に問われる可能性も

    認知症の相続人の代わりに家族が遺産分割協議書に署名や捺印をする行為は、無効です。それだけでなく私文書偽造の罪に問われるリスクもあります。
     

    相続放棄もできない

    認知症により判断力が低下した場合、法律上の行為が行えなくなるため、相続放棄もできません。また、他の相続人がその人に代わって相続放棄の申し立てをする試みも、家庭裁判所では受け入れられません。
     

    軽度の認知症であれば遺産分割協議への参加が可能な場合も

    ただし、認知症の診断を受けたからといって、必ずしも遺産分割協議へ参加できないわけではありません。認知症の程度は軽度から重度までさまざまで、判断能力の有無は一概には決まらないものです。軽度の場合は自ら遺産分割協議に参加し、有効な手続きが可能です。この場合、後見人も必要ありません。

    最終的な判断は相続手続きに関与する金融機関や司法書士などが行います。手続きをスムーズに進めるために、医師からの判断能力に関する診断書をもらっておくと良いでしょう。

     

    成年後見人制度を利用する場合の注意点

    認知症の相続人がいる場合は、成年後見人制度を利用することで遺産分割協議が可能となります。成年後見人がいれば、本人の代わりに遺産分割協議に参加したり、不動産売却時の合意を取り付けたりすることができます。ただし、成年後見制度にはいくつか留意しておくべき点があるため、確認しておきましょう。
     

    親族が後見人に選ばれる可能性は低い

    成年後見人の選定は家庭裁判所が行います。近年の傾向として、親族よりも弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人に選ばれることが多くなっています。

    「成年後見関係事件の概況」という裁判所の年次報告によると、令和4年のデータでは、後見人として親族が選ばれたのは19.1%に留まり、親族以外が80.9%でした。前年の令和3年に比べても親族の割合は減少しています。これは、親族が申立てをする件数が減少し、申立て時に親族を候補者として挙げないケースが多いことも影響しているようです。いずれにせよ、家族・親族が後見人に選ばれる割合は2割程度であるということを覚えておきましょう。
     

    成年後見人になれても遺産分割協議には特別代理人の選任が必要

    仮に親族が成年後見人になれたとしても、後見人自身も相続人である場合、遺産分割協議をおこなうためには特別代理人の選定が必要となります。

    このような場合、相続人と成年後見人の利益が衝突する可能性があるため、特別代理人の選任は家庭裁判所によって行われます。特別代理人には特定の資格は必要ありません。遺産分割協議に利害関係のない親族(例えば叔父やいとこ)を候補者とすることができ、身近な候補者がいない場合は専門家や第三者が選ばれることもあります。

    なお、成年後見人が選ばれた際に後見監督人も指名されている場合、後見監督人が成年被後見人の代わりに遺産分割協議に参加するため、特別代理人の選任は不要になることもあります。
     

    成年後見人へ報酬を支払う必要がある

    専門家が後見人になる場合、成年後見人に対し、月2〜6万円程度の報酬を支払わなくてはいけません。後見制度は原則中途で止めることはできないため、認知症の相続人が亡くなるまで報酬を支払い続けることになります。
     

    家族都合の協議は難しい

    成年後見人を任命することで遺産分割協議は可能になりますが、家族の望み通りになるとは限りません。後見人の主な役割は「相続人本人の財産を保護すること」であり、法定相続分を必ず確保します。

    例えば「母はすでに十分な資産を持っているから」という理由で子ども側が遺産分割協議で母親の取り分を法定相続分以下にしたいという提案があっても、後見人の合意をとるのは難しいでしょう。

    法定相続分で相続するデメリット

    成年後見人制度を利用する以外の方法として、「法定相続分」にしたがって遺産を分割する方法があります。この場合、不動産の相続登記などの手続きを進める際に遺産分割協議書の提出は不要です。一見問題なく進められそうに見えますが、いくつかデメリットがあります。
     

    相続税に関する特例が使えない

    遺産分割協議ができれば「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」といった相続税の負担を減らす特例が使えますが、法定相続分の相続では利用できません。
     

    一定額以上の預貯金は引き出せない

    名義人が亡くなったことが金融機関に知られると、口座が凍結され、出金や口座解約ができなくなります。凍結を解除するためには、遺産分割協議書の提出が必要です。たとえ法定相続分に基づいて預貯金を分割する場合でも、すべての相続人の印鑑証明書の提出が求められるため、認知症の相続人を巻き込まずに手続きを完了することはできません。このような状況では、結果的に遺産分割協議に参加するための代理人の選任が必要です。
    なお、葬儀費用や入院費の支払いで預金が必要なときは「預金の仮払い制度」が利用できます。この制度では、他の相続人の同意を必要とせずに、最大「150万円」または「口座残高×3分の1×法定相続分」のいずれか低い方の額まで預金を引き出せます。
     

    不動産が共有名義になる

    相続財産に不動産が含まれる場合、通常は遺産分割協議を行い、相続人の中の1人がその不動産を相続します。しかし、認知症の相続人がおり、遺産分割協議が行えない場合、不動産の相続者を特定できません。こうした状況下では、法定相続割合で「共有」の状態となります。
    共有不動産を売却したり、他の方法で処分する場合は、共有者全員の合意が必要ですが、認知症の相続人は合意ができません。不動産の持分を単独で売却したり賃貸に出すことは実質的に難しいため、不動産を持っていても実際に活用できないことになります。
     

    認知症の家族がいる場合の生前対策

    これまで解説してきたとおり、認知症の相続人がいる場合はスムーズな相続手続きが困難となります。仮にまだ両親とも認知症になっていなかったとしても、今後発症する可能性も大いにあるでしょう。相続発生後のトラブルに見舞われないため、事前にできる対策をご紹介します。
     

    遺言書の作成しておく

    まず第一の解決策は、亡くなる前に遺言書を作成しておくことです。遺言で「誰が何を相続するか」を明確にしておけば、遺産分割協議を行わなくても、不動産や預貯金の凍結解除と相続手続きを進めることが可能になります。

    ただし、認知症の配偶者に財産を相続させない選択をする場合は、相続税対策として利用可能な配偶者の税額軽減の特例を活用できないことを念頭に置いておきましょう。
     

    家族信託をする

    家族信託により承継先を定めておくことでも、同様に遺産分割協議を回避できます。事前に父親と息子が家族信託契約を結び、自宅と金銭を息子に信託することに合意していれば、信託契約に従い受託者である息子は信託財産を管理、運用、そして処分(例えば売却など)することが可能です。
     

    生前贈与をしておく

    生前に不動産や預貯金などの財産を贈与することも一つの選択肢です。ただし、控除額を超える贈与には贈与税が課されるため、注意しましょう。

     

    まとめ

    認知症により判断能力がない相続人がいる場合、遺産分割協議はできません。遺産分割を進めるためには成年後見人制度を利用する必要がありますが、時間と手間がかかる上、家族の理想の相続内容にするのは難しいのが現実です。家族にご高齢の方がいる場合は、早めに遺言書や家族信託の準備を進めておきましょう。

    司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

     

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