相続登記の義務化による罰則・過料とは?罰則を受けないための方法も解説
2024/04/11
相続登記において最も注目されている話題が、「相続登記の義務化」です。のちに詳しく説明しますが、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。なかでも気になるのが、義務に応じなかった場合どのような罰則があるのかということではないでしょうか。
そこでこの記事では、以下の内容を解説しています。
- 相続登記の義務化について
- 相続登記義務化以降の罰則内容
- 相続登記義務化による罰則(過料)を受けないための方法
- 相続登記をしない人によくある理由
- 相続人が相続登記をしないリスク
この記事を読むことで、相続登記の義務化に伴う罰則を詳しく理解することが可能です。まだ相続登記をできていない人はもちろん、相続登記の義務化について知りたい人もぜひ最後までご覧ください。
目次
1.そもそも相続登記とは?
相続登記とは、故人が生前所有していた不動産を相続人へと名義変更する手続きのことを指します。不動産の所有者情報は法務局が保管する登記簿に記載されており、相続が発生した際には、この登記を更新し新たな所有者として相続人の名前を登録する必要があるため、相続登記がおこなわれるのです。
たとえば、父が亡くなりその所有していた家が息子に相続される場合、家の名義人を息子へと変更するために相続登記をする必要があります。相続登記が完了することで、不動産の所有権が明確にされ、正式に相続人の資産として認識されます。
2.2024年4月から相続登記の義務化が開始
2024年4月1日以降、それまでは任意だった相続登記が義務化されました。義務化の開始後は、不動産を相続したことを知ったときから3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
「不動産を相続したことを知ったとき」とは、「相続の開始があったことを認識し、かつ、その所有権を取得したことを知った日」を指します。そのため、自身が相続人であることは把握していても、相続対象の財産に不動産があることを知らない場合は、相続登記の義務は生じないということです。
2-1.所有者不明の土地の発生防止が目的
今回相続登記が義務化されたのは、所有者不明の土地をこれ以上増やさないことを目的としています。
所有者不明の土地は、公共事業の推進の障害となるだけでなく、長期間放置されることで不法占有や環境問題の原因となり得ます。国土交通省の調査によれば、所有者不明の土地は日本国内の土地の約24%を占め、これは九州地方全体に匹敵する広さに相当するほどです。
このような状況を改善するために、相続登記の義務化が試行されました。これにより、土地の所有権が適切に移転され、所有者不明の土地が増えないことが期待されています。
3.相続登記義務化以降の罰則(過料)について
ではここから、相続登記義務化以降の罰則について解説していきます。
相続登記義務化以降に必要な手続きをおこなわない場合、罰則として「過料」が発生します。過料とは、行政上で定められている義務が守られなかったときに発生する、金銭の徴収による罰則のことです。
3-1.相続の認知から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が発生
相続した不動産に関して、その事実を知った日から3年以内に登記手続きを完了させなければ、最大10万円の過料が課されるようになりました。この措置は、相続人が自ら不動産の新たな所有者であることを認識した瞬間から適用されます。
不動産の存在を知らなかった場合は例外とされますが、一度相続財産の一部として不動産の存在を知った場合は相続登記義務が発生します。この規定は、不動産の所有権が明確にされ、所有者不明の土地を減らすことを目的としています。期限内に登記を行うことで、法的な問題を未然に防ぐと同時に、不動産管理の透明性を高めることが期待されます。
3-2.「相続を認知してから3年」の考え方
ひとえに相続を認知してから3年といっても、相続の進み方によってさまざまなパターンが存在します。今回は、よくある3つのパターン別に、「相続を認知してから3年」について詳しく解説していきます。
3-2-1.ケース①遺言書をもとに相続される場合
遺言書に基づき不動産を相続することが決定した際は、遺言者の死を知りかつ遺言によって自身が不動産を相続することを知ってから3年の期間内に相続登記を完了させる必要があります。
3-2-2.ケース②遺産分割協議が成立した場合
遺産分割協議に合意に至った際は、自身が相続人であることと、相続する財産に不動産が含まれていることを認識した日から3年の間に、協議の決定に基づいて相続登記をおこなう必要があります。
3-2-3.ケース③遺産分割協議が不成立の場合
遺産分割協議が不成立の場合でも、相続人が不動産の存在を知った日から3年以内に、相続人申告登記をおこなうか、または法定相続分に基づいた相続登記の申請をしなければなりません。
またその後に遺産分割協議による合意が得られた場合には、その合意内容に基づく相続登記を、合意が成立した日から数えて3年以内に申請する必要があります。
3-3.相続登記の義務化以前の相続分も対象
今回の相続登記義務化において、義務化以前におこった相続分も対象に含まれます。これは、法律が過去に遡って効力を持つことで、以前に相続があったにもかかわらず登記が完了していない不動産についても、登記の義務が発生するのです。
3-3-1.義務化以前に相続した不動産が未登記の場合の登記期限
相続登記義務化以前に相続した不動産が未登記の場合は、以下2つのパターンのいずれかで相続登記を申請する義務を負います。
- 施行日よりあとに不動産を相続したことを知った場合は、相続を知った日から3年以内
- 施行日より前に不動産の相続を認知していた場合は、施行日から3年以内(令和9年4月1日まで)
これらの期限までに正当な理由がないまま登記申請をしなければ、10万円以下の過料が課せられます。
関連記事:未登記建物は相続登記義務化の対象?未登記の罰則の可能性について
3-4.相続登記義務化による過料が発生する流れ
相続登記義務化によって過料が発生する場合、以下のような流れで進んでいきます。
- 相続登記の義務違反が登記官によって発見された場合、その違反者に対し、登記を促す催告がおこなわれる
- 催告を受けたにも関わらず、正当な理由なしに応じない場合、登記官は裁判所へ過料の申し立てをおこなう
- 裁判所が過料を課すかどうかを決定する
ただし、催告に従い適切に手続きをおこなえば、過料の通知を避けることが可能です。
4.相続登記義務化による罰則(過料)を受けないための方法4選
ここからは、相続登記義務化による過料を受けないための方法として以下4点を解説していきます。
- 相続発生から3年以内に「共有登記」する
- 相続発生から3年以内に遺産分割協議をして相続登記する
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
- 相続放棄する
それぞれ見ていきましょう。
4-1.相続発生から3年以内に「共有登記」する
相続によって不動産の所有者が変わったと認識したならば、3年の間に全ての法定相続人の名前で共有登記をおこなうことで、相続登記の義務を満たせます。
しかし、この方法は一時的な対策としては機能しますが、遺産分割協議を経て特定の相続人の名義だけにする予定の場合は、最適な選択とはいえません。その理由は、単独名義の登記に変更するためには再度の手続きが必要なうえに、計2回分の登録免許税を支払うことになるからです。さらに、共有名義による登記は将来的に権利関係を複雑化させるリスクもあります。
そのため、共有名義にて登記する場合は、全員がリスクを理解している状態で進めることが望ましいです。
4-2.相続発生から3年以内に遺産分割協議をして相続登記する
相続が発生し、自らが新たな所有者であることを認識した際には、3年以内に遺産分割協議を実施し、相続人を確定させて相続登記を完了させるのがおすすめです。これにより、余分なコストをかけずかつスムーズに手続きを進めることが可能です。
しかし、3年の期限内に遺産分割協議が成立しないこともあり得るため、その際は相続人申告登記の利用を検討すると良いでしょう。
4-3.相続土地国庫帰属制度を利用する
2023年4月27日から施行されている「相続土地国庫帰属法」により、不要となった相続土地を国へ譲渡できる新たな制度が設けられました。相続によって得られた土地が放置されることが多い現状を踏まえ、この法律は土地の有効活用を促すことを目的としています。
ただし、この制度を利用するには以下のような条件があります。
- 土地評価に基づく10年間の管理費を負担する必要がある
- 建物が建造されている土地は対象外となる
- 土壌汚染が認められる土地は対象外となる
上記は条件のなかでも一部を抜粋したものです。制度の利用を考える際には、要件をしっかりと確認しましょう。
4-4.相続放棄する
もし不動産の相続を望まない場合、相続放棄を選択することが一つの解決策です。相続放棄をすることにより、相続人の立場から離れ、相続登記の義務から解放されます。
相続放棄をおこなうには、家庭裁判所への申請が必要で、相続人になったことを知ってから基本的に3カ月以内に手続きを完了させる必要があります。
5.相続登記をしない人によくある3つの理由
ではなぜ相続登記を放置してしまう人がいるのでしょうか。よくあるのが、以下3つのような理由です。
- 手続きが複雑だから
- 登記に費用がかかるから
- 相続人全員の合意が必要な場合があるか
それぞれ解説していきます。
5-1.理由①手続きが複雑だから
相続登記の手続きには、定められた多数のステップを踏む必要があり、知識のない方にとっては特に複雑です。たとえば、必要となる戸籍謄本や不動産登記証明書などの書類を集めるためには、複数の公的機関を訪れる必要があります。また、これらの書類を基に正確な申請書を作成し、法務局へ提出するのにも時間と労力を要します。
手続きが複雑でよくわからないし、対応している時間もなかなか取れないという方が多く、相続登記は後回しにされてしまいがちです。
5-2.理由②登記に費用がかかるから
相続登記には、登録免許税の支払いを始め、必要書類の取得費用や場合によっては専門家への報酬など、多岐にわたる費用が発生します。登録免許税は不動産の価値に比例し、これに加えて書類取得の手数料や司法書士への依頼による費用は、総額として決して無視できない金額になり得ます。
特に、経済的価値の低い不動産の場合、登記にかかる費用が負担となり、相続したとしても経済的な利益は少ないでしょう。
5-3.理由③相続人全員の合意が必要な場合があるから
遺言がない場合、不動産の相続にあたっては相続人全員の同意が求められます。特に、相続人が多数いる場合や相続人同士の関係が複雑である場合、全員の合意を得ることは容易ではありません。また、一部の相続人が協力的でない場合、遺産分割協議を進めること自体が困難になる可能性があり、相続登記が放置される一因となっています。
6.相続人が相続登記をしない4つのリスク
相続人が相続登記を放置していると、以下のようなリスクが生まれます。
- 放置するほど相続登記が複雑になる可能性がある
- 相続した不動産の売却・担保提供などができない
- 相続した土地を活用できない
- 第三者が不動産の権利
これらの事態に陥ってから慌てることのないよう、どのようなリスクなのか把握しておきましょう。それぞれ解説します。
6-1.リスク①放置するほど相続登記が複雑になる可能性がある
相続登記を長期間放置すると、次第に相続人が増えていき、権利関係がより複雑化するリスクがあります。
たとえば、登記されている所有者である父が亡くなり、その後継ぎとして3人の子がいたとします。もし、これらの子が相続登記をせずに亡くなった場合、彼らの子供たちが新たな相続人になり、そしてその子供たちもまた亡くなることで、相続人はどんどん増えていくことに。このように相続人が増加すると、全員が一致して相続登記を行うことは実際には非常に難しい状況になりがちです。
6-2.リスク②相続した不動産の売却・担保提供などができない
相続登記を怠ると、登記簿上の所有者が故人のままとなり、不動産の売却や担保提供が事実上不可能になります。実際の所有者と登記簿上の所有者が一致しない場合、法的な取引ができなくなるため、将来的に不動産を利用したい場合でも、その機会を失うことになってしまうのです。
特に、急に資金が必要になった場合や、不動産を活用したいと思った時に、手遅れとならないよう早めの登記をおすすめします。
6-3.リスク③相続した土地を活用できない
相続した土地の所有権が明確でないと、土地の有効活用が難しくなります。たとえば、アパート建設などの不動産投資を考えている場合、所有者が確定していない土地では、建設業者や金融機関からの信頼を得られず、資金調達や建設の進行が停滞する可能性があります。土地所有者の名義が明確でないと、土地の利用に制約が生じかねないというわけです。
6-4.リスク④第三者が不動産の権利関係に関わってくる可能性がある
借金を抱えている相続人がいる場合は、特に慎重な対応が求められます。債権者の権利として、借金を背負っている相続人の代わりに正式な相続手続きを進め、その人の相続分に対して差し押さえをおこなうことができるためです。
さらに、該当する相続人は自らの持分を売却や担保として提供することもできるため、相続登記をせずに放置しておくことで、相続人以外の第三者が、財産の権利に関与してくるリスクが生じます。
7.相続登記がすぐにできない場合の救済措置がある
音信不通の相続人がいたり、相続人同士の間で遺産分割協議がまとまらないなど、相続登記をおこないたくてもおこなえない状況が発生することもしばしば。相続が滞ることによって相続登記の義務を果たすことが難しく、期限を守れない場合には過料が課されるリスクもあります。
そのような状況に対応するための救済措置として「相続人申告登記の申出」が設けられています。法務局に対して、「不動産の所有者の相続が開始されたこと」と「自身が相続人であること」の2点を申告することで、相続登記の義務を果たしたとみなされるというものです。
ですが相続人申告登記の申出は、あくまで自身が相続人であることを申告しているにすぎません。つまり申告しただけでは相続対象の不動産を所有したことにはならないのです。
よって、不動産の所有者となるためには別途正式に相続登記をする必要があります。
8.相続登記義務化の罰則に関連するよくある質問
最後に、相続登記義務化の罰則に関連するよくある質問についてお答えしていきます。相続登記の義務化と罰則の関係についての不明点がなくなるよう、それぞれ確認してください。
8-1.Q.相続登記をせず過料も支払わないとどうなりますか?
相続登記をせずにさらに過料の支払いもしていない場合、過料が課される可能性があります。過料は行政上の規則違反に対して課される費用であり、その支払いを怠ると、不動産を含む個人財産に対する差し押さえなど、さらなる法的措置を受けるリスクが生じます。
8-2.Q.相続登記をしなくても過料を支払えば相続登記の義務はなくなりますか?
過料の支払いは、相続登記を怠ったことに対する罰則であり、過料を支払ったからといって相続登記の義務が免除されるわけではありません。過料を支払った後でも、相続登記の義務は依然として残っています。
つまり、過料を支払うことは義務違反に対する一時的な対価であり、本来の登記義務を果たしたことにはならないため、過料支払い後も引き続き相続登記をおこなう義務は残ります。
8-3.Q.相続放棄をしました。相続登記の義務は残りますか?
相続放棄の手続きが家庭裁判所にて正式に認められた場合、相続人としての地位は失われるため、相続登記の義務もなくなります。しかし、相続放棄によって次の相続人が現れる場合、新たな相続人に登記の義務が移る点には注意が必要です。
相続放棄をする際には、その後の相続人に対する影響も考慮する必要があります。
8-4.Q.相続登記は誰に相談するのがいいですか?
相続登記の手続きには専門知識が必要となるため、司法書士や弁護士の助けを借りるのが一般的です。まず初めに司法書士へ相談するのがおすすめですが、相続に関する紛争がある場合や、特定の相続人との協議が困難な状況であれば、弁護士の支援を求めることも検討しましょう。無料の法律相談を提供している公的機関や専門家団体もありますので、このようなサービスを利用することも一つの選択肢です。
8-5.Q.相続登記の申請をできない「正当な理由」について教えてください。
相続登記をおこなうことができない「正当な理由」には、様々な事情が考慮されます。相続人が多く必要書類の収集に時間がかかる場合や、遺言の有効性や遺産の範囲についての法的な問題が未解決の場合、相続財産の帰属が不明確な状態にある場合などが該当します。
また、申請者が健康上の理由で行動が制限されている場合や、経済的な困難により登記費用の支払いが難しい場合など、個人の状況に応じた様々な事情が「正当な理由」として認められる可能性もあります。
9.まとめ
相続登記の義務化に伴い、義務に応じないことで罰則が発生するようになりました。具体的には、相続登記の義務が生じてから3年以内に手続きを完了しない場合、10万円の過料が課されるというものです。
相続登記義務化においては、義務化が開始された2024年4月1日よりも前に発生している相続も対象となります。もし相続手続き真っ只中なのであれば、不動産の相続についてその他の相続人とよく話し合い、円滑に相続登記を進められるようにしましょう。
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