相続登記しないまま親族が死亡したらどうする?対処法と放置するリスク
2024/12/26
自分の父親または母親が死亡し、相続財産として不動産を譲り受けたものの、登記名義人が祖父になっているケースが稀にあります。登記は不動産の権利関係にも関わるので、正確な状態にしなければなりません。
この記事では、親族が相続登記しないまま死亡した場合のリスクについて紹介します。対処法も併せて解説するため、不動産を相続する予定のある人はぜひ参考にしてください。
目次
1.相続登記は2024年4月より義務化された
不動産の相続登記は、2024年4月より民法で明確に義務化されました。義務化された理由は、所有者不明の空き地・空き家が増えているためです。
相続登記を済ませるまでの期限は、相続開始または所有権を取得したのを知った日から3年以内とさ
れています。遺産分割協議で相続したときの期限は、遺産分割から3年以内です。
2.相続登記しないまま親族が死亡したらどうするのか
たとえば、父・母・長男・次男からなる4人家族で、不動産を所有していた父が亡くなり、母に不動産が相続されたとします。しかし、相続登記を済ませないまま母が亡くなったことで、今度は長男に不動産が相続されました。
このような場合、長男が相続登記の対応をおこなう必要があります。ここからは、上記のようなケースでどのように対応をすべきなのか、解説していきます。
2-1.要件を満たせば中間省略登記ができる
要件を満たした場合、中間省略登記をおこなうのがベストです。中間省略登記とは祖父から父、父から自分へと登記するとき、父の手続きを省略して祖父から自分に名義人を切り替える方法です。
中間省略登記であれば、通常の手続きよりもスムーズに名義変更ができます。
※相続登記をするには、基本的に不動産が渡る順番を守らないといけません。原則として、中間省略登記は認められないので注意してください。
2-2.中間省略登記が認められる要件と具体的なケース
中間省略登記は原則として認められませんが、数次相続に該当する場合は例外的に可能です。数次相続とは被相続人が死亡したあと、遺産分割協議を済ませる前に相続人が亡くなって相続が生じる状態を指します。
ただし数次相続に該当するからといって、必ずしも中間省略登記ができるわけではありません。ここでは具体的な要件について解説します。
2-2-1.中間にいる相続人が1人のみ
要件の一つとして挙げられるのが、中間にいる相続人が1人のみの状態です。たとえば祖父が死亡し、その相続人が父親1人だけだったとします(一次相続)。その後父親が亡くなったケースであれば、中間省略登記が認められます(二次相続)。
中間省略登記ができる理由は、戸籍謄本を見れば権利関係が明らかになるためです。一次相続と二次相続の関係性をしっかりと押さえてください。
2-2-2.相続する人が1人のみ
中間にいる相続人が複数いたものの、結果的に1人だけが相続するケースも中間省略登記が認められる余地はあります。たとえば祖父が死亡し、相続人に父親と叔父がいました(一次相続)。
すぐに叔父が相続放棄をし、父親の死亡により息子が財産を引き継いだ状態(二次相続)を指します。ほかにも不動産を父親が一人で相続したときも、基本的には中間省略登記が認められます。
3.相続登記しないままにするリスク
相続では数々の手続きが求められるため、登記を面倒に感じる人もいるかもしれません。しかし相続登記を怠ると、今後の生活において以下のようなリスクが生じます。
- 10万円以下の過料を命じられる恐れがある
- 第三者に所有権を主張できなくなる
- 不動産の売却が困難になる
- 遺産分割協議で不利益が生じる
- 不動産が差し押さえられる可能性もある
- 不動産を担保に融資を受けられなくなる
- 保険金等をスムーズに受けられなくなる
それぞれ解説していきます。
3-1.10万円以下の過料を命じられる恐れがある
相続登記が義務化されたことで、新たに罰則が設けられました。手続きを怠った場合、10万円以下の過料を命じられる恐れがあります。
過料はあくまで行政罰であり、処分されたとしても前科がつくわけではありません。しかし最高で10万円の支払いが生じるため、経済的な負担がかかります。
関連記事:相続登記の義務化による罰則・過料とは?罰則を受けないための方法も解説
3-2.第三者に所有権を主張できなくなる
相続登記を済ませないと、第三者と所有権を争えなくなります。相続人の一人が見知らぬ人物に不動産を売り飛ばしたとしても、登記がなければ対抗できません。
仮に相手方が先に登記を済ませたら、所有権を奪われてしまいます。不動産は生活において重要な財産となるため、しっかりと登記して所有権を主張できるようにしましょう。
3-3.不動産の売却が困難になる
相続した不動産を、誰かに売却して金銭を得ようと考えている人もいるでしょう。しかし相続登記がなされていないと、売却が極めて難しくなります。
不動産の登記は、原則として所有権の移動した順番におこなう必要があります。登記名義人が祖父になっているにもかかわらず、順番を無視して買主名義にはできません。
相続した不動産を、3年を経過する日が属する12月31日までに売却すれば3,000万円の特別控除が受けられます。制度を有効活用すべく、登記手続きは早めに終わらせましょう。
3-4.遺産分割協議で不利益が生じる
相続登記の手続きの着手が遅れると、遺産分割協議でも不利益が生じる恐れがあります。時間が経過するほど、遺産分割協議をおこなうのが難しくなるためです。
遺産分割協議書を完成させるには、相続人全員の署名捺印をもらわないといけません。しかし多くの年月を要し、次の相続が発生したら相続人の数が増えます。相続人同士の関係性が薄れやすく、遺産分割協議を完了させることがより難しくなるでしょう。
遺産分割協議で全員の同意を得ないと、いつまでも自分名義人の相続登記ができません。次の相続が発生しないうちに、手続きを済ませる必要があります。
3-5.不動産が差し押さえられる可能性もある
相続登記をしないことで、不動産が差し押さえられる可能性もあります。例えば自身に弟がいて、2人で家を相続したとしましょう。
加えて弟が第三者からお金を借りており、履行期が過ぎても返済できずにいました。この場合、弟の債権者が2人で相続した不動産を差し押さえ、借金の回収に充てることがあります。自分名義で登記を済ませれば、弟の債権者に持分が差し押さえられるのを防げます。
3-6.不動産を担保に融資を受けられなくなる
人によっては、相続した不動産を担保に銀行からお金を借りることもあるでしょう。ただし相続登記を本人名義にしていなければ、銀行は融資しません。登記は、融資を申請した人への信用度を測る重要な指標となるためです。
銀行からの融資を頼りに事業を始めようとしても、登記が完了するまで開業できなくなる場合もあります。できる限り早めに資金を得たいのであれば、相続登記の手続きを完了させなければなりません。
3-7.保険金等をスムーズに受けられなくなる
相続した不動産が、火災や地震によって消失する可能性も考えられます。こうした事態に備え、火災保険や地震保険に加入している人も多いでしょう。
しかし相続が完了したあとに上記の事情で建物を失っても、登記名義人を変更していなければ保険金の支払いが滞ってしまいます。場合によっては、相続人全員に分配されることもあります。
保険金も、不動産を所有するうえで重要な要素の一つです。自身が所有するのであれば、正しく手続きをおこない、問題なく保険金を受け取れるようにしましょう。
4.相続登記に必要な手続きとプロセス
相続登記を済ませるには、法務局などで手続きが必要です。手続きのプロセスは、大きく次のように分かれます。
- 不動産の確認
- 遺産分割協議
- 書類の収集
- 登記申請書の作成や提出
各プロセスについて詳しく解説していきます。
4-1.不動産の権利関係や状態を確認する
相続登記するときは、まず不動産の権利関係や状態を確認しましょう。権利関係については、登記事項証明書に記載されています。
自宅に保管していない場合でも、法務局へ問い合わせれば改めて入手可能です。パソコンを所有している人は、「登記情報提供サービス」にてオンライン上で情報を確認できます。
登記事項証明書には、土地と建物に分けて面積や構造が示されています。相続登記でも重要な情報となるため、入念にチェックしてください。
4-2.遺言書がなかったら遺産分割協議をおこなう
被相続人が遺言書を残していないのであれば、相続人らで遺産分割協議をおこないます。遺産分割協議は相続人全員の参加が必要であるため、早めに連絡をとるようにしてください。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名捺印が必要です。誰がどの財産を引き継ぐか、じっくりと話し合いましょう。
4-3.相続登記に必要な書類を集める
相続登記に必要な書類は以下のとおりです。
- 被相続人の戸籍謄本(死亡〜出生まで)
- 被相続人の住民票除票
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
これらを入手したあと、登記申請書と併せて提出しなければなりません。しかし状況によって提出書類が異なる場合もあるので、法務局や司法書士にあらかじめ確認したほうが賢明です。
4-4.登記申請書を作成・提出する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成して不動産のある住所を管轄する法務局へ提出します。提出する際には、登録免許税を納めなければなりません。収入印紙をあらかじめ登記申請書に貼り付けておきましょう(法務局でも入手可能)。
登記完了証の発行は、1〜2週間程度の期間を要します。これらは大事な書類となるため、送付されたら大切に保管してください。
5.相続登記についての困りごとは司法書士に相談しよう
相続登記の手続きについて、困りごとがあったら司法書士に相談しましょう。司法書士は、登記申請書の作成を代理でおこなってくれます。加えて登記のプロであるため、手続きをスムーズに済ませるコツも聞けます。
ただし司法書士は、弁護士とは異なりすべての手続きを代理できるわけではありません。簡易裁判所以外では、訴訟代理人の権利も認められていません。どこまでのサービスに対応できるかを、あらかじめ確認するとよいでしょう。
6.まとめ
相続登記しないまま親族が死亡した場合、不動産の権利関係は極めて複雑になります。要件を満たせなければ、中間省略登記もできません。
正しく登記されていないケースにおいては、司法書士にはじめから相談するのをおすすめします。手続き方法や提出書類のアドバイスをもらい、相続のトラブルを未然に防げるようにしましょう。
司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。