土地だけを相続放棄することはできない!注意点と他の手放す方法を紹介
2024/02/08
「土地を相続することになったけど、管理が大変で資産価値もないから相続したくない」
このような場合、相続放棄という手段があります。しかし、土地だけの相続放棄は可能なのでしょうか。
この記事では、土地を相続放棄するメリット・デメリットや注意事項について解説します。
将来的に土地を相続することになる可能性がある方はぜひ参考にしてください。
目次
1.土地だけの相続放棄はできない
管理が難しい土地や、買い手がつかない土地を相続することになった場合、相続放棄を検討するでしょう。しかし、土地のみを相続放棄することはできません。
相続放棄する場合は、プラスもマイナスも合わせてその他すべての財産を放棄する必要があります。田舎の土地だけ相続放棄して都心のマンションはそのまま相続する、といったことは認められていないのです。
2.土地だけの相続放棄はできない
土地のみに関わらず、遺産の相続放棄にはメリットとデメリットが存在します。それぞれを比較し、状況に合った判断をすることが重要です。
2-1.相続放棄するメリット
- 土地の管理から解放される
- 固定資産税を払う必要がない
- マイナスの財産(借金、ローンなど)の返済義務がない
- 相続人同士のトラブルに巻き込まれない
2-2.相続放棄するデメリット
- すべての遺産を相続できなくなる
- 相続権が移動し、相続人以外の人が相続する可能性がある(※)
- 相続放棄は撤回できない
- 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
- 被相続人と同居していた場合、退去しなければならない
※すべての直系尊属が相続放棄をすると兄弟姉妹に相続権が移ります。仮に配偶者と兄弟姉妹の関係性があまり良くなかった場合、相続トラブルに発展することもあります。
3.どのような場合に相続放棄すべき?
相続放棄におけるメリットとデメリットを踏まえた上で、相続放棄を検討すべきなのはどういったケースなのでしょうか。相続放棄をしないほうがいいケースも併せて具体例をご紹介します。
3-1.相続放棄を検討した方がいい例
- 負債が多く、相続財産全体でマイナス価値になる場合
- 土地の管理が難しく、近隣トラブルの回避が優先される場合
- 被相続人が連帯保証人になっていた場合
- 相続人間と関係性が悪く、トラブルに巻き込まれたくない場合
3-2.相続放棄すべきではない例
- 土地以外にも高額な遺産が存在し、それらの利益で土地の維持費を賄える場合
- 世代を超えて受け継がれてきた価値ある遺産をどうしても放棄したくない場合
4.相続放棄後も管理義務は残る
相続放棄したとしても、新しい所有者が決まるまでの間、土地の管理義務は残ります。
相続人全員が相続放棄を選択した場合、土地を含む財産は国庫へ帰属します。しかし、すぐに管理責任から逃れられるわけではありません。家庭裁判所によって相続財産清算人(旧:相続財産管理人)が選任されるまでの期間は、放棄した相続人に管理義務が残ります。
これは民法940条1項に次のように示されています。
「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」 |
もしこの期間に適切な管理を怠り、近隣住民に損害を与えた場合、損害賠償請求される可能性も。
相続放棄を行ったからといって、直ちに財産の管理義務がなくなるわけではないので、注意が必要です。
5.土地を相続放棄する場合の注意点
土地を含む財産を相続放棄をする場合、注意すべきことがいくつかあります。事前に確認した上で、相続放棄を検討しましょう。
5-1.相続放棄することを相続人全員に連絡する
相続放棄は他の相続人の承諾を得ずに個別に行うことが可能です。ただし、放棄によって相続権が他の相続人に移行するため、事前の相談を怠るとトラブルの原因となることがあります。家庭裁判所から次の相続人に連絡が行くことはないため、放棄した人が伝えない限り、その人は知らないうちに相続権を引き継いでいることになります。相続財産に負債も含まれていた場合、突然債権者からの請求が来るなど迷惑をかけてしまうことになるため、相続放棄する場合は後順位の相続人に前もって連絡しましょう。
5-2.相続放棄できなくなるケースがある
以下のケースでは、相続放棄が認められない場合があるので注意してください。
5-2-1.ケース①3ヶ月の期限を過ぎる
相続放棄の手続きは、相続開始の事実を知った時から3ヶ月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、原則、相続放棄を行うことができなくなります。相続放棄には財産の調査や必要な戸籍謄本の取得など時間がかかる作業が伴うため、期限内に手続きを完了させるためには早いうちから準備を始めることが重要です。
ただし、事情により期限内に相続放棄ができない場合、家庭裁判所に申し立てることで期間の延長が認められる可能性があります。
5-2-2.ケース②財産の 処分をする
相続財産を全部または一部処分する行為は、相続財産と債務を無条件・無制限に全て引き継ぐ「単純承認」とみなされるため、相続放棄を行う権利を失います。さらに、相続放棄後でも、相続財産を全部または一部消費した場合には、その放棄は無効とされることになります。
また、土地の名義変更も単純承認とみなされる行為に該当するので、注意してください。
相続放棄を考えている場合は、遺産に対して何も手を加えないことが肝心です。
5-3.管理義務期間中の放置は危険
前述したように、相続放棄した場合でも次の相続人が決まるまで(または相続財産清算人が選任されるまで)の管理義務は放棄した人に残ります。
<管理責任を問われる例>
- 土地にある家屋が崩壊した
- 土地上の木が倒れて通行人を負傷させた
- 草刈りをしていないことで害虫が発生した
- 放置されたゴミが原因で近隣住民から苦情が出た
- 建物が放火された
次の相続人が決まるまでの管理義務期間中は、その管理責任を負うことになります。相続人全員が相続放棄をしたことで相続財産清算人を選任する必要がある場合、選任までに数ヶ月かかることもあるため、放置するとこれらのリスクが高まります。場合によっては損害賠償請求される可能性もあるので、定期的な確認とメンテナンスが必要です。
5-4.相続財産清算人への報酬が発生する
弁護士や司法書士が相続財産清算人として選任されると、報酬として毎月約1万円〜5万円がかかります。さらに、相続財産清算人の選任に際しては、10万円から100万円程度の予納金が必要となり、原則、家庭裁判所に申し立てをする人がこの費用を負担します。
土地の処理に長い時間がかかれば、それに伴って報酬の総額も増加するため、相続放棄を検討する際には、費用の面からも慎重に判断する必要があるでしょう。
5-5.相続放棄をしても固定資産税の納税通知が来ることがある
相続放棄を行っても、納税義務者を決める期日において登記簿に名前が記載されていた人宛に固定資産税の納税通知書が送られることがあります。これは、固定資産税の徴収において「台帳課税主義」が採用されているためで、この原則により、実際の状況に関わらず登記簿に記録された人が土地の所有者とみなされるからです。固定資産税を免れるためには、相続放棄をしたことを証明する文書(相続放棄申述受理通知書)を役所に提出する必要があります。
6.いらない土地を相続放棄以外で手放す方法
他の財産を相続するために相続放棄できず、土地を相続せざるを得なくなることもあるでしょう。こうした場合でも、土地を手放す方法は他にもあります。
6-1.売却する
自分には不要と思われる土地でも、他の人にとって価値のあるものかもしれません。売却額の見積もりを取る場合、複数の業者が提供する一括査定サービスの利用がおすすめです。土地に建物が存在し、それが空き家の場合は、解体して更地にした後で新築地として売り出したり、移住を希望する人向けの空き家バンクに登録する選択肢も考慮に入れることができます。
なかなか買い手がつかない場合は、価格を下げて売り出すことも検討しましょう。
6-2.寄付する
自治体や企業に寄付するという手段もあります。しかし、自治体への寄付は断られる可能性が高いです。その主な理由は、自治体の財源確保に関係しています。固定資産税は自治体にとって重要な収益源であるため、土地の寄付を安易に受け入れると、財源確保が難しくなってしまうのです。さらに、管理が難しい土地の寄付を受け入れると、管理コストが問題になることもあります。自治体への寄付は必ずしも受け入れられるとは限らないので注意してください。
6-3.土地活用する
土地を手放すことが難しい場合、不要な土地であっても固定資産税の支払いが毎年発生します。土地を有効活用することによって、これらの税金を賄えるかもしれません。土地の利用方法には、以下のような選択肢があります。
- 賃貸住宅や商業施設として利用する
- 個人用や業務用のトランクルームとして運営する
- 太陽光パネルを設置し、土地を貸し出して発電事業を行う
特に地方にある家屋付きの土地の場合は、賃貸として提供することで賃料収入を得られるだけでなく、放置による害虫の発生や家の老朽化といった問題を防げます。立地が不利であっても、都市部の暮らしに疲れた人や、自然環境の中で子育てを望む人など、意外な需要が見込めることがあります。また、太陽光発電については、国や自治体から補助金が受けられることもあるので、確認してみてください。
6-4.相続土地国庫帰属制度を利用する
全国で所有者が不明な土地が増加している問題に対処するため、「相続土地国庫帰属法」が令和5年4月27日から施行されました。この法律は、相続などで取得した土地の所有権を国庫に移すことで、所有者不明土地の増加を防ぐことを目的としています。これにより、相続放棄とは異なり、他の財産を引き続き相続しつつ、特定の土地のみを国に譲ることができます。
ただし、利用に際して以下の点に注意してください。
- 却下事由、不承認事由に該当する場合は利用できない
- 14,000円の審査手数料と、土地の地目や面積に応じた負担金を納付する必要がある
相続土地国庫帰属制度に関する相談は、法務局や地方法務局で行うことができます。
7.まとめ
土地を相続放棄をしたい場合、その他すべての財産相続権を放棄しなければなりません。相続放棄にはメリット・デメリットが存在するので、状況に応じた慎重な判断が求められます。
相続放棄ができず土地を相続することになっても、土地活用や相続土地国庫帰属制度の利用による対処も可能です。土地の相続でお困りの際は専門家に相談することをおすすめします。