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相続人が認知症であることはバレる?認知症を隠すリスクとは?

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相続人が認知症であることはバレる?認知症を隠すリスクとは?

相続人が認知症であることはバレる?認知症を隠すリスクとは?

2024/10/18

「同じ相続人である母の認知症がだいぶ進行している」という悩みを抱えている人も少なからずいるでしょう。

相続人の中に認知症の人がいることを隠そうとしても、家庭裁判所にバレる確率は高いといえます。仮にバレてしまった場合、相続の手続きがスムーズに進まなくなる恐れがあるので注意が必要です。

この記事では、次の内容について詳しく解説します。
 

  • 相続人の認知症がバレる要因
  • 相続人が認知症であることを隠すリスク
  • 認知症が相続の手続きにどう影響を及ぼすか
  • 相続人が認知症の場合はどう対処すべきか
     

認知症を抱えている親族がいる人は、今後の手続きに向けての参考にしてください。

目次

    1.そもそもなぜ相続人の認知症がバレるのか

    認知症が外部にバレる要因として挙げられるのが、主に以下の手続きです。
     

    • 銀行での手続き
    • 家庭裁判所での手続き


    具体的なケースについて紹介しましょう。
     

    1-1.銀行にバレる

    まず考えられるのが、銀行で手続きした際に認知症であることがバレるケースです。

    単に病院から診断を受けただけでは、守秘義務があるので銀行に情報は渡りません。それでも認知症がバレる理由として、以下の場合が挙げられます。
     

    • 対象の相続人の親族が窓口に相談した
    • 本人が窓口へ訪れた際の行動・言動に違和感が見られた


    銀行が認知症の疑いを持ったとき、本人の財産を守るべく銀行口座を凍結します。一度凍結されてしまうと、生活費や医療費などを口座から引き落とせなくなるので注意が必要です。

    ほかの相続人で折半する際に、トラブルが生じることも考えられます。
     

    1-2.家庭裁判所にバレる

    銀行のほかにも、家庭裁判所に認知症であるのがバレる場合もあります。特にバレる可能性が高いのが、遺産分割協議書の代筆です。

    遺産分割協議書を提出する際には、相続人全員が自筆で署名しなければなりません。代筆で誤魔化そうとしても、明らかに筆跡が違うなどの理由でバレてしまいます。

    また相続放棄の手続きで家庭裁判所に訪れたとき、行動や言動を不審に感じてバレることもあります。これらの理由から相続人の認知症は隠せないと理解しておきましょう。

    2.相続人が認知症であることを隠すリスク

    相続人が認知症であることを隠し通そうとすると、手続きするうえでさまざまなトラブルが発生するリスクがあります。それだけではなく損害賠償請求や刑事罰の対象にもなりかねません。特に起こりうるデメリットについて詳しく紹介しましょう。
     

    2-1.家庭裁判所での決定が無効になりうる

    相続人が認知症であるのを隠していると、家庭裁判所での諸々の手続きが無効になります。仮に一度手続きが完了しても、決定がなかったことになりうるので注意してください。

    相続が発生した場合、死亡したことを知った日から10カ月までに申告と納税(相続税)を済ませなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、加算税や延滞税といったペナルティが課せられる恐れもあります。

    家庭裁判所での決定が取り消されると、手続きを一から進めないといけないのでタイムリミットを過ぎる可能性も高まります。

    結局バレることを考えたら、はじめから認知症の相続人がいるのを明かしたうえで手続きを進めたほうが賢明です。
     

    2-2.銀行との取引が無効になりうる

    銀行との取引が無効になりうる点も、相続人が認知症であるのを隠し通すリスクのひとつです。先程も説明したとおり、口座名義人が認知症を患うと基本的に口座は凍結します。

    相続人が認知症を患った際、いくら相続手続きに必要でもほかの家族が勝手に口座から現金を引き出すのは無効とされています。基本的には、成年後見制度を利用しないといけません。

    2021年に全国銀行協会が指針を発表し、一定の条件を満たしていれば後見人以外の家族でも引き出しできるよう緩和されました。

    ただしこの条件を満たすには、以下の手続きを踏む必要があります。
     

    • 認知症の診断書等を提出する
    • 財産の使用目的を銀行に伝える


    つまり認知症を隠して口座からお金を引き出せば、その行為が無効になる可能性は極めて高いでしょう。
     

    2-3.詐欺罪や有印私文書偽造罪にあたることも

    認知症であるのを隠して相続手続きをすると、詐欺罪や有印私文書偽造罪などに該当する恐れもあります。これらの法定刑は以下のとおりです。
     

    罪名 法定刑
    詐欺罪 10年以下の懲役
    有印私文書偽造罪 3カ月以上〜5年以下の懲役


    詐欺罪は、主に銀行に対する行為(偽造した遺産分割協議書で預金を払い戻すなど)が該当します。特に金融取引が絡むと、相手方を欺いたことになるためです。

    一方で相続人の認知症を隠して遺産分割協議を完成させると、有印私文書偽造罪にあたります。
     

    2-4.ほかの相続人から損害賠償請求される恐れもある

    これらの問題以外にも、ほかの相続人から損害賠償請求されるリスクも発生します。例えば同じ相続人で母が認知症であるのを知らない弟に対し、事実を隠したとしましょう。

    弟は遺産分割協議にも参加し、その決定にしたがって財産を譲り受けられると信じていました。しかし母の認知症を隠していたのがバレてしまい、手続きが全て無効になったと仮定します。

    この場合、本来貰えるはずの利益が失われたのと同じ状態になります。したがって事実を知らなかったほかの家族が、隠蔽した人物を訴えることもあるでしょう。

    実際の賠償額はケースによって変わりますが、財産の状況次第では高額になる恐れもあるので注意してください。

    3.認知症の相続人がいることで生じる問題

    そもそも相続人が認知症であるのを隠す事例が出てしまうのは、相続手続きにおいていくつかの問題点があるためです。認知症と相続の関係性について説明するので、どのような問題が起こりうるかをしっかりと押さえてください。
     

    3-1.遺産分割協議を開催できない

    相続人の中に認知症の人がいると、原則として遺産分割協議ができません。先程も説明したように、遺産分割協議書は全ての相続人による署名と捺印が求められます。

    したがって協議の内容をしっかりと理解する必要があり、認知症の人はそれができないと考えられているためです。一方で後見人が参加すれば、遺産分割協議も開催できるようになります。
     

    3-2.認知症の相続人は単純承認が原則となる

    ほかにも認知症の相続人は、基本的に単純承認しかできなくなるのも問題のひとつです。相続には、大きく分けて以下の3種類があります。
     

    相続の種類 内容
    単純承認 プラスとマイナスの財産全て引き継ぐ
    限定承認 プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
    相続放棄 プラスとマイナスの財産全てを放棄する


    このうち限定承認と相続放棄については、書類作成などの手続きが必要です。財産に関する理解があることが条件であるため、認知症を患っている人にはできないとされています。

    仮に被相続人が多額の借金を抱えていても、単純承認しかできないので損する可能性も高まってしまいます。
     

    3-3.相続財産が共有となってしまう

    遺産分割協議ができないため、相続財産に「不動産」があっても法定相続分に基づいて相続する形となります。この場合、不動産は共有するのが基本です。

    特に共有自体は問題ないように思えますが、仮に売却や贈与を検討した場合は共有者全員の同意を得ないといけません。なぜならこれらの行為は「共有物の変更」に該当するためです。

    そのため不動産をいつまでも現物で管理しないといけない状態になります。管理が著しく制限されることで、トラブルの引き金にもなりかねないでしょう。

    関連記事:認知症の相続人がいる場合の相続手続きはどうなる?問題点と対処法を解説

    4.認知症の相続人がいるときはどういった対策が必要か

    認知症の相続人がいると、相続手続きにいくつか支障が出てしまいます。とはいえ隠し通そうとすると、別の問題を引き起こしかねません。そこで認知症の相続人がいるときに、どういった対策が必要になるかを解説しましょう。
     

    4-1.遺言で財産を譲り渡す

    まず対処法のひとつとして挙げられるのが遺言です。しかし遺言書を残すうえでは、必ず遺言執行者を指定しなければなりません。

    遺言執行者がいないと、結局相続人が自分で遺言書の内容に基づいて手続きする必要があります。認知症の相続人では手続きできないので、遺言書を残した意味もなくなります。

    遺言執行者を指定しておけば、相続人を関与させずに相続手続きが可能です。遺言執行者は家族以外でもなれますが、自己破産者や未成年者は選べません。

    基本的には司法書士や弁護士を選ぶケースが多いので、その点も踏まえて被相続人が生きている間に教えておくとよいでしょう。
     

    4-2.家族信託を利用する

    遺言以外にも、家族信託を利用するといった方法も有効です。家族信託とは信頼の置ける家族に対して、親が認知症になった場合に備えて自身の財産を管理できるようにする制度を指します。

    例えば父(被相続人)の財産を、あらかじめ子どもに信託したとしましょう。このときに母が認知症を患った場合でも、母の相続分を子どもが管理できます。

    ただし子どもが代わりに管理できる財産は、あくまで信託契約で取り決めた範囲のみです。それ以外の財産は相続財産に分類されるため、成年後見制度や遺言も併用するのをおすすめします。
     

    4-3.成年後見制度も押さえよう

    相続人が認知症を患ったときは、成年後見制度も検討してください。対象者が事理を弁識する能力を欠いているとみなされた場合、基本的に本人は単独で法律行為ができなくなります。

    そこで本人の法律行為を代わりにする人物として置かれるのが後見人です。後見人がいれば、遺産分割協議や相続放棄といった手続きも代わりにできるようになります。

    ただし相続人の立場の人が後見人になると、遺産分割協議への参加は利益相反行為とみなされます。したがって必ず特別代理人を立てましょう。

    一方で遺産分割協議後、後見人は変わらず職務を全うしなければなりません。自身を後見人に選んでしまうと成年被後見人に付きっきりとなり、今後の生活にも支障が出ることもあります。

    家族以外の人物(司法書士など)を選んだ場合は、月に数万円ほどの報酬が発生します。

    5.まとめ

    相続人の一人が認知症を患うと、相続手続きにおいてさまざまな支障が出てしまうのは確かです。しかし事実を隠し通そうとすれば、手続きに支障が出るだけではなく裁判沙汰になる恐れもあります。

    隠し続けようとしても、何かをきっかけにバレる可能性は大いにあるでしょう。事実はしっかりと明らかにし、そのうえで対策を講じることが大切です。

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