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認知症の相続人は不動産相続できる?遺産分割の方法を解説

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認知症の相続人は不動産相続できる?遺産分割の方法を解説

認知症の相続人は不動産相続できる?遺産分割の方法を解説

2024/09/10

「相続人の一人である母親が、重度な認知症を抱えている」
家庭が上記のような状態であり、相続の手続きをスムーズに進められるかを不安に感じている人もいるでしょう。 

この記事では、不動産相続を中心に次の内容についてまとめます。
 

  • 認知症と民法の関係
  • 認知症の相続人は遺産分割協議に参加できるか
  • 認知症の相続人が不動産相続で受ける制限
  • 認知症の相続人がいる場合の不動産相続対策
  • 成年後見制度の利用


記事を読めば、遺産分割協議以外の対策法についても理解できます。不動産相続の手続きをする際の参考にしてください。

目次

    1.認知症と民法の関係

    不動産相続をするうえで、押さえておくべき法律のひとつが民法です。民法では、親族が認知症を患っているときの財産の管理について定めています。

    一口に認知症と言っても、症状は人によってさまざまです。そこで民法では、大きく以下の3つに分けています。
     

    認知症の症状(制限行為能力者) 条件
    成年被後見人 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況
    被保佐人 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく低い
    被補助人

    精神上の障害により事理を弁識する能力が低い


    最も症状の重い人が成年被後見人です。日常生活を営むのも難しいとされ、基本的に後見人が法律行為に関与します。「成年被後見人→被保佐人→被補助人」の順番で症状が軽くなります。

    症状ごとにできる手続きも異なるので、まずは対象者がどのレベルに該当するかを把握しましょう。

    2.認知症の相続人は遺産分割協議に参加できるか

    成年被後見人・被保佐人・被補助人を合わせて制限行為能力者と呼びます。

    制限行為能力者の場合、原則として遺産分割協議には参加できません。後見人が代わりに参加する形となります。

    一方で被保佐人であれば、保佐人が同意することで遺産分割協議に参加できる場合もあります。また家庭裁判所より代理権付与の審判が下りたら、代理人として保佐人の遺産分割協議への参加が可能です。

    親族が被補助人に該当するときは、補助人に必ずしも同意権や代理権が与えられているわけではありません。家庭裁判所の審判により、これらの権利を行使できます。同意権の範囲に遺産分割協議が含まれていなければ、被補助人は単独での参加が認められます。

    3.認知症の相続人が不動産相続で受ける制限

    認知症を患っている相続人も、一定の条件を満たせば遺産分割協議に参加できることもあります。ただし相続の手続きにおいて、制限が課されているケースも少なくありません。ここでは、どのような制限があるのか以下の3つに分けて解説します。
     

    • 利益相反につながる恐れがある
    • 遺産分割協議書の代筆は禁止
    • 相続放棄にも制限がかかる
    • 相続放棄にも制限がかかる

     

    3-1.利益相反につながる恐れがある

    遺産分割協議において気をつけなければならないポイントは、利益相反につながる恐れがある点です。利益相反とは、自分の利益と相手の利益が対立する関係を指します。

    後見人や保佐人といった保護者は、基本的に親族から選ばれるでしょう。しかしその親族が相続人の一人であると、保護者と制限行為能力者の財産が利益相反の関係となります。

    利益相反関係を避けるには、家庭裁判所に申請して特別代理人を選定しなければなりません。選定されるまで3カ月以上かかることもあるので、早めの手続きが必要です。
     

    3-2.遺産分割協議書の代筆は禁止

    相続人の中には、早く財産を分けるために遺産分割協議書を作成したいと思う人もいるでしょう。

    しかし代理人の権限のない人が、勝手に代筆すると私文書偽造罪に問われる恐れがあります。当然ながら代筆で作られた遺産分割協議書では効果は発揮しません。

    遺産分割協議の実施は、相続人全員の参加が条件のひとつです。認知症を患っている本人も相続の権利があるにもかかわらず、ほかの相続人だけで話を進めるのは認められていません。

    相続の内容が正式に決まったのを示すべく、遺産分割協議書には相続人全員の署名および捺印が必要です。法律を犯さないためにも、署名・捺印を偽造する行為は必ず避けてください。
     

    3-3.相続放棄にも制限がかかる

    認知症を患っている人は、原則として本人が直接相続放棄できません。相続放棄とは、被相続人のプラスおよびマイナスの財産すべてを引き継がないことです。

    成年被後見人に放棄させる場合は、後見人が代わりに手続きしなければなりません。しかし相続放棄が本人に損害を与えたら、後見人の立場を解任されるケースもあります。

    新たに任命された後見人から損害賠償請求されることもあるので、責任を持って手続きしてください。

    被保佐人は、保護者の同意が得られたら本人自らの相続放棄が可能です。被補助人は保護者に同意権があれば同意を必要とし、なければ本人が単独で行使できます。
     

    3-4.限定承認が認められない

    相続人が認知症を抱えている場合、原則として限定承認もできません。限定承認とは、プラスの財産分のみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。

    こちらも基本的には、想像放棄の考え方と同じです。本人の財産に関わるので、原則は認められないとされています。ただし被補助人においては、補助人に同意権が付与されていなかったら単独での限定承認も認められます。

    4.認知症の相続人がいる場合の不動産相続対策

    相続人の中に認知症を患っている人がいると、相続の手続きがスムーズに進まないことも考えられます。そこで使える相続対策の例が下記の3点です。
     

    1. 生前贈与
    2. 遺言書の作成
    3. 家族信託の利用


    それぞれの対策法について詳しく紹介しましょう。
     

    4-1.生前贈与

    生前贈与とは、被相続人が生きているうちに財産を分与することです。例えば父親が亡くなり、配偶者である母親(制限行為能力者)と子が相続人になったとしましょう。

    このケースにおいて、父親が生存している間に不動産を子に譲渡すれば、所有権を持つのは子です。たとえ母親が施設に入居しても、所有者は子であるため不動産を処分できます。

    しかし生前贈与をすると、贈与税が発生します。贈与税は、暦年課税か相続時精算課税制度を選ぶかによって節税が可能です。暦年課税と相続時精算課税制度のルールを、表でまとめたので参考にしてください。
     

      内容 控除額
    暦年課税 1月1日〜12月31日までの1年分の贈与財産に課税される制度 1年間で110万円までは非課税
    相続時精算課税制度 60歳以上の父母が18歳以上の子や孫に財産を贈与したときの贈与税の制度 2500万円+110万円(法改正により追加)が非課税


    なお暦年課税と相続時精算課税制度は、どちらか一方しか選べません。2024年に法改正されるなど、複雑なルールもあるので手続きが難しいと感じたら司法書士に相談するとよいでしょう。
     

    4-2.遺言書の作成

    被相続人が遺言書を作成し、手続きをスムーズに進めやすくするのも有効です。遺言書により遺産分割の方法が決まるので、相続人全員での協議は必要ありません。

    遺言書には、大きく分けて以下の3種類があります。
     

    • 公正証書遺言…公証人が遺言者の代わりに遺言書を作成する方法
    • 自筆証書遺言…遺言者が自分で遺言書を作成する方法(家庭裁判所の検認が必要)
    • 秘密証書遺言…遺言の内容を第三者が分からない状態にする方法


    これらの中で、有効に成立しやすい方法が公正証書遺言です。推定相続人やその配偶者などを除いた証人2人の立会が必要ですが、検認が不要で原本を役場で管理してもらえます。
     

    4-3.遺言書の作成家族信託の利用

    家族信託の利用も、おすすめしたい方法のひとつです。家族信託は契約書に基づき、家族へ財産の管理や処分を依頼する制度を指します。売却益の権利も設定できるので、被相続人が亡くなったあとも信託された人物は自由に財産の処分が可能です。

    ただし家族信託の契約書を素人だけで完成させるのは簡単ではありません。そのため司法書士に依頼するなど、プロの力を借りたほうが賢明です。

    5.成年後見制度の利用

    上記で紹介した制度以外にも、成年後見制度を選ぶといった方法もあります。成年後見制度とは、後見人を設定して本人の財産を管理してもらう制度のことです。大きく分けて法定後見制度と任意後見制度の2種類が存在します。

    先ほども説明したとおり、事理弁識能力を欠く常況に該当する人は「成年被後見人」にあたります。この場合は法定後見制度に該当し、任意後見制度を選べません。一方で事理弁識能力が単に不十分な状態であれば、今後に備えて任意後見制度を選択できます。

    本人の代わりに後見人が遺産分割協議に参加することで、ほかの相続人の負担も軽減できるでしょう。
     

    5-1.成年後見制度のメリット

    成年後見制度を利用すれば、遺産分割をスムーズに進めつつ、認知症を患っている親族の財産も管理できます。家族の財産を守るうえで、極めて重要な制度です。

    認知症の親族が財産を管理していると、詐欺師に騙されるリスクも高まります。今後、家族の知らないうちに高価な商品を買わされるかもしれません。

    一方で自身が後見人となっていれば、成年被後見人の代わりに契約を結ぶかどうかを判断できます。財産にかかるさまざまなトラブルを回避できるのが、成年後見制度の強みです。
     

    5-2.成年後見制度のデメリット

    成年後見制度のデメリットは、一度利用すると本人が亡くなるまで後見人にならないといけないことです。仮に不動産を売却できても、後見人の立場は消滅しません。財産を常に管理する立場であるため、転勤が制限されるなど仕事や生活にも支障が出るでしょう。

    また後見人は、定期的に成年被後見人の財産を家庭裁判所に報告する義務があります。このような手続きを、煩わしく感じる人も少なからずいます。特に家庭裁判所は平日しか手続きできないため、仕事をしている人はスケジュールの調整も必要です。

    6.まとめ

    認知症の相続人がいるにもかかわらず、適切な手続きをしていないと相続の負担が大きくなる恐れもあります。家族の財産を守るためには、制度の内容をしっかりと押さえておくことが大切です。

    とはいえ相続に関するルールは複雑であり、すべて理解するのは簡単ではありません。決して一人で悩まず、プロの司法書士へ相談してください。司法書士がさまざまなアドバイスを送り、スムーズかつ適切な手続きができるようサポートします。

    司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

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